胎児、新生児のケトン体は、今の基準値より高値が当たり前。

【14/08/11 産婦人科医 宗田
日本とアメリカの糖尿病学会誌
江部先生、先日の日本糖尿病学会誌のレターに対する詳細な反論ありがとうございました。
インスリンが使われるようになる前は、糖質制限食は、糖尿病の治療食だったということですが、インスリンを使うようになっていつでも血糖を下げられるという安易な治療が中心になって、食事療法や糖質に対する警戒がなくなっているように思えます。
『それは1991年当時は、空腹時血糖値とHbA1cのみで血糖コントロールを評価しており、酸化ストレスの最大リスクである「平均血糖変動幅増大」「食後高血糖」のことは、全く知られていませんでした。当然この文献でも無視されています。』
理解しました。
1991年のRizzo等論文を引用して妊婦のケトン体高値のリスクを語る方が多いのですが、これはケトン体が100-180μmol/Lというレベルで評価を下しており、普通の妊婦の臍帯血や胎盤のケトン体が1000μmol/Lくらい当たり前、という値から見たら、まったく意味のない数字ですね。
でも
1)ケトン体=知能低下説と
2)ケトン体=飢餓説は、日本糖尿病学会に蔓延している慢性疾患です。
糖質制限食に対する偏見もひどいですが、糖質制限ではない症例を使って、責任のないレターで個人のつぶやきレベル( エビデンスレベル最低) で批判する日本の糖尿病学会誌と、大勢のデーターをRCT論文(エビデンスレベル最高)にまとめて掲載しているアメリカ糖尿病学会誌の研究を比べると驚くべきレベルの差を感じます。
悲しいことですが、かえって、先が見えてきたように感じるのは私だけでしょうか?】
こんにちは。
産婦人科医の宗田先生から、ケトン体に対するコメントをいただきました。
ありがとうございます。
宗田先生は、年間700例の分娩を手がけておられ、糖質制限食を導入され、胎児、臍帯血、新生児のケトン体値を、積極的に調べておられます。
ケトン体値は、アボットジャパン 株式会社のプレシジョン エクシードでβケトンを調べておられます。
従って、ケトン体のなかで、βヒドロキシ酪酸を測定ということになります。
βヒドロキシ酪酸の基準値ですが、
ファルコバイオシステムズ:74μM/L 以下
SRL:85μmol/L以下
京都微生物研究所:76μM/L 以下
といった具合で、会社により少し差があります。
2014年1月12日(日)大阪国際会議場で開催された第17回日本病態栄養学会年次学術集会において、宗田先生がご研究を発表されました。
以下はその時のデータです。
βヒドロキシ酪酸濃度(74~85μM/L以下)
胎盤絨毛間液:1730μM/L  58検体Mの平均
600~4500μM/Lの幅あり。全検体が基準値よりはるかに高値。
臍帯血(一般食):181.7μM/L  231人の平均
16~1149μM/Lの幅があり、33%は基準値より高値。
一般食でも最大は1149μM/L。
生後4日目新生児の血液:240μM/L  312人の平均
100~800μM/Lの幅あり。全員基準値より高値。
生後1ヶ月新生児の血液:400μM/L  40人の平均
300~700μM/Lの幅あり。全員基準値より高値。

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胎児・新生児のケトン体は高値。ケトン体の安全性の証明。

こんばんは。
2014年1月12日(日)
大阪国際会議場で開催された第17回日本病態栄養学会年次学術集会に参加してきました。
お目当ては、10:50~12:00に発表された糖質制限食3題です。
一般演題69 小児栄養・母子栄養②
第2日目1月12日(日)10:50~12:00  会議室801+802
O-429 妊娠糖尿病における糖質制限食事療法の導入効果の検証第2報1
永井クリニック松本桃代、他
O-430 妊娠糖尿病における糖質制限食事療法の導入効果の検証2第二報CGMによる検討を加えて
宗田マタニティクリニック河口江里、他
O-431 妊娠糖尿病における糖質制限食事療法の導入効果の検証3糖質制限食による高ケトン血症は危険か?
宗田マタニティクリニック宗田哲男
永井クリニック松本桃代管理栄養士は、昨年に続いて、妊娠糖尿病において、糖質制限食が血糖管理に有効であり、安全に実施できることを報告されました。
宗田マタニティクリニック河口江里管理栄養士は、CGM(Continuous Glucose Monitoring:持続ブドウ糖測定)システムを使用して、糖質制限食と糖質を摂取した場合の、血糖変動を比較検討されました。
その結果、糖質を摂取すれば食後高血糖と平均血糖変動幅増大を生じ、糖質制限食ならそれらが生じないことを示されました。
宗田哲男先生は、普通に糖質を食べている女性における人工流産児の絨毛のケトン体値を、58検体測定され、平均1730μmol/Lで、通常の基準値(血中総ケトン体28~120μmol/l)に比しはるかに高値であることを報告されました。
58検体全てが成人の基準値よりはるかに高値でしたので、胎児のケトン体の基準値は成人よりかなり高値であると言えます。
これは世界で初めての報告であり、極めて貴重なデータです。(^-^)v(^-^)v
6週から18週までの胎児の絨毛間液のケトン体値がこれほど高値であることは、胎児の脳を始めとした組織の主たるエネルギー源はケトン体である可能性を示唆しており、このことはそのままケトン体の本質的安全性を証明するものです。
勿論58検体全例で、酸性血症(アシドーシス)ありませんでした。
また生後4日目の新生児312名において、血中ケトン体の平均値は240.4μmol/L
生後1ヶ月の新生児40名において、血中ケトン体の平均値は400μmol/L
と一般的な基準値よりはるかに高値であることを報告されました。
新生児のケトン体値の報告も、これだけの数がまとまったのは、おそらく世界で始めてと思います。
このデータからは、新生児においても血中ケトン体は重要なエネルギー源となっていることを示唆しており、ここでもケトン体の安全性が保証されたことになります。
ヒューマン・ニュートリション第10版(医歯薬出版)2004年、P748
脳の代謝の項目に
「・・・母乳は脂肪含有量が高くケトン体生成に必要な基質を供給することができる。
発達中の脳では血中からケトン体を取り込み利用できるという特殊な能力があり、新生児においてはケトン体は脳における重要なエネルギー源となっている。・・・」
との記載があります。
ヒューマン・ニュートリションは、英国で最も権威のある人間栄養学の教科書です。
新生児においては、ケトン体は脳の重要なエネルギー源ということを明記してあるのはすごいです。
一方、新生児だけではなく、胎児においてもケトン体は脳における重要なエネルギー源の可能性が高いことは、世界で初めて宗田哲男先生が示されたわけです。
今回の宗田先生の研究成果は、今後「ヒューマン・ニュートリション」にも引用されていくと思います。
宗田哲男先生、松本桃代管理栄養士、河口江里管理栄養士のお三方、糖質制限食やケトン食推進において、ターニング・ポイントとなる貴重な発表をありがとうございました。 m(_ _)m
江部康二
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