結核症 (Tuberculosis)

結核症 (Tuberculosis)  九州大学健康科学センター 山本和彦

結核症といえば、肺結核症で喀血する患者の姿が思い浮かびます。第二次大 戦以前は結核症の患者がたいへん多かったこと、若い人々が次々と結核症で命を失い、その悲劇が小説・演劇・映画にしばしば取り上げられたこと、戦後抗生物 質(ストマイ)が登場して、結核症が治る病気になったこと、衛生・生活環境の改善とともに結核症患者が減少したことは、よくご存知のことと思います。日本 の保健・衛生システムは、結核症対策を最も重要な課題の一つとして組織・運営されてきましたが、患者数の減少とともに結核症の重要性は薄れ、生活習慣病 (成人病)対策に重心がシフトしてきました。結核症という言葉をあまり聞かなくなり、周囲に患者が殆どいなくなった状況の中で、●結核症は過去の病気、● 簡単に治るので、大した病気ではない、との認識が広がってきました。
ところが目を世界に転ずると、結核症は過去の病気どころか、依然と して、最も人類を苦しめている病気の一つであることが分かります。アフリカや南アジアでは、HIV感 染の拡大とともに、エイズ患者に結核症が蔓延しています。また、抗結核薬の効かない多剤耐性結核菌が現れ、脅威となってきました。
日本では、第二次大戦後減少傾向にあった患者数が1997年に増加 に転じ、結核菌の集団感染がしばしば報告されるようになりました。近年、特に医療機関や福祉施設で病院内・施設内感染が頻繁に起るようになり、1999年 7月26日、厚生省は結核緊急事態宣言を出して、警鐘をならしました。ここでは、結核症の基礎知識と、結核症を巡る最近の話題と問題点を概説します。
結核菌
結核症は、マイコバクテリウム属に属する結核菌による、慢性の細菌 感染症です。結核菌は1882年、ロベルト・コッホによって発見されました。最も一般的な患部は肺ですが、肝臓、腎臓、消化器や髄膜など、全身の臓器を侵 すことがあります。マイコバクテリウム属には30種以上の細菌が属していますが、大部分は自然界に遍在するもので、病原性は殆どありません。その中のヒト 型結核菌(Mycobacterium tuberculosis var. hominis)とウシ型結核菌(Mycobacterium tuberculosis var. bovis)が、ヒトに感染して結核症を起こします。ハンセン病を起こすライ菌(Mycobacterium leprae)も、マイコバクテリウム属に属します(Principles of Internal Medicine 1991: 637-645)。
結核菌は表面に免疫反応を引き起こす多数の抗原決定基を持ってお り、感染するとツベルクリン反応のような細胞性免疫反応を起こします。結核症では患部に特有の肉芽腫が形成されますが、これも免疫反応の一種と考えられて います。
感染経路
結核菌は主として、空気を介してヒトからヒトに感染します。結核症 では、肺結核症の患者が最も多いことは言うまでもありません。肺結核症ではよく咳や痰がでますが、排菌性の場合、痰の中に結核菌が含まれています。閉め きった空間は空気が乾いており、痰が乾燥しやすくなっています。痰が乾燥すると結核菌(飛沫核)が露出し、これが風でフワフワと空中に飛散します。エアコ ンやファンヒーターが稼働していると、結核菌がなかなか落下せず、フワフワと浮いた状態が長く続きます。このような場所に健常者が入って行くと、結核菌を 吸い込んで感染します。これが、結核菌の空気感染です(日本医事新報 1999; No. 3913: 1-14)。
結核菌は紫外線に弱い菌ですから、太陽光にあたれば無害になります (Principles of Internal Medicine 1991: 637-645)。従って、太陽光が降り注ぐ空間では、空気感染は起りにくくなり ます。また、室内の換気をよくして、結核菌を戸外に追い出せば、空気感染を予防することができます。戸外に出た結核菌は、太陽光の紫外線で感染力を失いま す。
ウシ型結核菌は、菌が入ったミルクを飲んで感染しますが、今ではウ シ型結核菌による結核症は殆どなくなりました。
結核菌の初感染
続きを読む

結核にかかってしまったので、結核について調べてみた

2009/04/05

結核にかかってしまったので、結核について調べてみたCommentsAdd Star

先日、健康診断で肺のレントゲンにカゲがあると言われて検査を受けるように言われました。健診結果はレントゲンを除きすべて正常値で、血液検査の結果も問題なく、まったくの健康体だったので、どうってことないだろうと高をくくっていたのです。しかし、病院での検査結果が出たら、なんと結核陽性でした…。
結核は非常に進行がゆっくりしていて、このように何の自覚症状もなく、血液検査にも異常がなくても、発症しているケースがあるらしいです。何らかの病気にかかっていれば、てっきり白血球の値等が増えていたりするものだと思っていました…。
以下、私は医学を勉強したものではないので、あくまで参考程度のものですが、調べたこと、わかったことを書いてみました。(誤り等がありましたら、訂正いただけると助かります。)

結核に感染しても発症するのは 1割程度

結核は、感染 = 発症というわけではなく、結核菌に感染しても、実際に発症する人は 1割程度という話です1。何年も発症していなくても、免疫力が弱ったときに発症することがあるそうです。年寄りの結核はそういう例が多いみたいですね。
1950年代は20代ですでに国民の約半数が感染という記述がありましたが2、その世代は今 70〜80歳というところでしょうから、若い頃に感染していたのかもしれません。
感染してても発病しないというのは、帯状疱疹とかと似たような感じなんでしょうか。帯状疱疹のウイルスは、水ぼうそうのウイルスなんですけど、水痘・帯状疱疹ウイルスに感染しているからと言って、帯状疱疹が発症する人は非常に限られているみたいな。ある病気のキャリアで発症はしていない、というのは他の病気でも聞きますね。
私の場合、実は毎年、健康診断の胸部 X線で引っかかっていて、去年の検診結果には「軽度気腫性変化の疑い」と書いてありました。例年のことなので気にしていなかったのですが、今年は「浸潤陰影3」となっていて、病院での精密検査を勧められたわけです。それまで眠っていたものが、この 1年で動き始めた感があるので、このところ抵抗力が落ちていたんでしょうね…。
なお、2007年度の日本国内の新規の結核患者数は、25,311人でした。内訳は高齢者が多く、70歳以上の占める割合が、47.9% にのぼります。50歳以上になると、74.5% です4

結核の感染経路

続きを読む