高齢者と薬「控えたい薬」
- 1 控えたい薬のリスト
- 2 ベンゾジアゼピン系睡眠薬
- 3 三環系抗うつ薬
- 4 認知症に似た症状が心配される薬
- 5 抗血栓薬
- 6 高血圧の薬
- 7 糖尿病の薬
- 8 自己判断で中止しないこと
控えたい薬のリスト
高齢者には副作用が強く出やすいため控えたい薬が数多くあります。そのリストが『高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015』(日本老年医学会などが作成)という医師むけの冊子に公表されています。ガイドラインには、特に慎重な投与を要する29種類の薬の名前が示されているほか、不眠症・うつ病、認知症、呼吸器疾患、循環器疾患、高血圧、糖尿病などの病気ごとに、どの薬がどう問題なのかが詳しく示されています。
ガイドラインの対象は主に75歳以上ですが、75歳未満でも介護を受けている人や要介護に至る手前のフレイルという状態(筋力の低下や認知機能の障害で心身が全体的に弱くなっている状態)の人も含みます。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬
不眠症の薬としてよく使われるベンゾジアゼピン系睡眠薬は、のんだあとや夜中に目覚めてトイレに行く時などに ふらついて転倒しやすい薬です。また認知機能(ものごとの判断や記憶などの脳の働き)が低下するおそれがあります。そのため高齢者は、できるだけ使わないように、または使っても漫然と長く使わないようにします。1か月以上服用している人は、量を減らせないかなど医師に相談するとよいでしょう。ベンゾジアゼピン系抗不安薬も同じです。
不眠の悩みを薬に頼らずに軽減するには、睡眠に関する習慣や考え方を見直すことも大切です。あまり眠くないのに早くから寝床に入らないようにする、寝つけないと思ったら寝床からいったん離れる、加齢とともに睡眠は自然に短く浅くなることを念頭におき若い頃と同じように眠ろうとしない、などです。
三環系抗うつ薬
うつ病の薬として古くからある三環系抗うつ薬は、便秘・口の渇き・認知機能低下・眠気・めまいなどの副作用が、高齢者では多くなります。
そもそも高齢者のうつ病には薬がやや効きにくいことも知っておきましょう。また、仕事をやめる、家庭で孤立するなどの生活上の変化が高齢者のうつ病には影響します。そのサポートも薬の治療とともに大切です。
認知症に似た症状が心配される薬
高齢者では様々な薬の副作用で認知症に似た症状が起こりやすくなります。主なものは、ベンゾジアゼピン系睡眠薬・抗不安薬、三環系抗うつ薬、パーキンソン病の薬の一部、排尿障害の薬オキシブチニン、アレルギー薬などで使われるヒスタミンH1受容体拮抗[きっこう]薬(第一世代)、胃薬などで使われるヒスタミンH2受容体拮抗薬です。
認知症が疑われた場合、これらの薬の副作用ではないかを確認する必要があります。これらの薬は認知症の発症リスク自体も高めるとみられています。
抗血栓薬
抗血栓薬いわゆる「血液をサラサラにする薬」は、脳梗塞や心筋梗塞の予防薬ですが、高齢者では特に注意が必要です。
脳梗塞や心筋梗塞は、脳や心臓の血管の中で血栓という血のかたまりができ、それが血管に詰まることで起こります。抗血栓薬はその血栓をできにくくしますが、反対に出血が起こりやすくなるのです。消化管の出血が多いほか脳出血のリスクも高まります。
そのため、抗血栓薬を2種類以上併用する場合は1年以内が目安です。ただし脳梗塞・心筋梗塞の予防には欠かせない薬なので、1剤は使い続けます。
抗血栓薬にはアスピリンに代表される抗血小板薬とワルファリンに代表される抗凝固薬があります。それぞれ新しい薬も多数登場しています。
高血圧の薬
高齢者が高血圧の薬を使う場合、薬は少量から開始し血圧は徐々に下げます。薬が効き過ぎて血圧が下がり過ぎると、立ちくらみや転倒を起こしやすくなり、認知機能にも影響するからです。75歳以上で高血圧が軽い場合やフレイルの場合は、そもそも薬を使うかどうかを個別に判断します。
高血圧の薬には多くの種類がありますが、カルシウム拮抗薬、ARB、ACE阻害薬、サイアザイド系利尿薬のどれかをまず使うことが一般的です。高齢者も同じで、これらの薬には大きな問題はありません。これら以外に特に慎重に使うべき薬があります。その薬と副作用は以下のとおりです。非選択的α1遮断薬(立ちくらみ・転倒)、ループ利尿薬(腎機能低下、立ちくらみ・転倒)、 非選択的β遮断薬(呼吸器病の悪化、ぜんそく)。自分が使っている薬がこれらに当るかどうかは医師や薬剤師に尋ねてください。
糖尿病の薬
糖尿病の薬のうちスルホニル尿素薬やインスリン製剤は低血糖を起こしやすいため、高齢者は特に慎重に使うべきです。SGLT2阻害薬はインスリンなどと併用した場合の低血糖が報告されています。
糖尿病の薬は血糖値を下げるために使いますが、薬によって血糖値が下がり過ぎる低血糖を起こしやすいのです。低血糖になると、冷や汗・手のふるえ・動悸[き]・生あくびなどが最初に起こりますが、高齢者の場合これらは自覚しにくく、低血糖が進んで思考力低下や意識低下が起こって初めて低血糖に気づくことが多くなります。動脈硬化が進んでいる場合、重い低血糖は脳梗塞や心筋梗塞、認知機能低下のリスクにもなります。
低血糖以外に注意すべき糖尿病の薬と副作用は以下のとおりです。ビグアナイド薬(吐き気や腹痛などの胃腸症状、筋肉痛、過呼吸)、チアゾリジン薬(骨粗しょう症や心不全の悪化)、SGLT2阻害薬(脱水、尿路・性器感染症)
自己判断で中止しないこと
ここまで紹介した薬が自分に処方されている場合、不安に感じるかもしれませんが、必要があって処方されていることも多いので、自己判断で中止してはいけません。病気が悪化するおそれがあります。必ず医師・薬剤師に相談してください。薬の情報をよく知って積極的に相談すれば、より詳しいアドバイスが得られるでしょう。
※2016年4月現在の情報です。
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