世界一売れている薬
「コレステロールの高い食べ物は身体に悪い」、「血中コレステロール値の基準値を少しでも超えると危険」……。
ここまで読まれた読者は、コレステロール値について、私たちが信じ込まされてきた「常識」がことごとく間違いであることがおわかりになったことだろう。
なぜこれまで真実が隠され続けてきたのか。その背景を名古屋市立大学名誉教授の奥山治美氏が語る。
「いままで古い常識が通用してきたのは、『コレステロール値が高いと危険だ』という話で儲ける人たちがいたからです。
私は’00年頃から自分で調査した証拠に基づき、様々な学会を批判してきましたが、誰も受け入れようとしなかった。それは学会の中に、製薬会社や食品メーカーからかなりの金銭的サポートを受けているところが少なくないからです。彼らのためにも、誤りを認めるわけにはいかなかったのでしょう」
血中コレステロール値を下げるために広く使われている薬が、スタチンというジャンルの高脂血症治療薬だ。
市場調査会社・富士経済によれば、これら高脂血症治療薬の各社の売り上げの合計は年間約3801億円(’10年度)となっている。
スタチンを飲んでいる患者は世界で4000万人以上いて、「世界一売れている薬」という異名を持つ。
このことを多くの人が知るようになれば、薬が売れなくなって困る企業は絶えないだろう。
だから、学会はなんとしてでも、企業の意を汲み、基準値を維持しようとする。
問題を生み出しているのは、学会と製薬メーカーの癒着だけではない。
新潟大学名誉教授の岡田正彦氏が指摘する。
「医者が何も考えずに薬を処方しているのも問題です。3ヵ月間、食事や運動などの生活指導をしてもほとんどコレステロール値は下がりません。だから、そんな面倒臭いことをするより、薬を出しておけばいいや、と考える医者が少なくないんです」
すると薬漬けにされた患者は病院を定期的に訪れることになり、経営的にも都合がいいことになる。
こうして、いい加減な基準値があることで、製薬メーカーや病院の懐が潤うという構図だ。
だが、本当は必要のない薬であっても当然、副作用はある。NPO法人医薬ビジランスセンター理事長・浜六郎医師は指摘する。
「スタチンは、いろんな酵素をブロックしてしまうため、細胞が呼吸するときに必要なミトコンドリアの活動を阻害する。そのため細胞の機能が落ち、免疫が低下してしまう。一時的に効くことはあるが、血中コレステロール値が多少高いからといって、何も考えずに使うのは馬鹿げています」
第1部で見たように食事制限によって、血中コレステロール値は左右されない。
それで困っているのが、コレステロール値を下げることを謳い文句にする食品を売ってきた企業である。
日本健康・栄養食品協会によると、厚労省から健康に一定の効果があると認められている特定保健用食品(トクホ)の市場規模は約6000億円。そのうちコレステロール値を下げると謳う食品の市場規模は約220億円に及ぶ。
その種類は茶、青汁、豆乳、シリアル、マヨネーズ……とバラエティに富んでいる。
健康食品業界の焦り
今回の声明により、これらの商品がまったく無駄である可能性が高くなったわけだが、当事者たちはどう受け止めているのか。
低コレステロール・マヨネーズなどを主力商品とする大手食品会社幹部が、社内の混乱を語る。
「食事制限は意味がないという報道がまだ少ないので助かっていますが、これが広まれば一体どうなるか。いまは消費者の動向を注視している段階です。商品の販売を止めるのか、新しく何を売りにすればいいのかといった具体的な対策は何も決まっていません」
医療ジャーナリストの室井一辰氏が語る。
「食品会社にとっては、これまでの売れ筋商品がまったく無意味になるわけですから、死活問題です。
昨年、人工甘味料が『砂糖よりも太る』と問題視されましたが、報道のすぐ後、人工甘味料ゼロの商品が売り出された。今回も低コレステロール商品を扱っている会社は、早急に対応しなければ、受ける損害は計り知れません」
基準があることで「病人」が作られ、薬が処方される。さらに人々の不安を煽ることで、効果が定かでない健康食品が売れていく。まさにコレステロール・マフィアとも言うべき、利権が発生しているのである。
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