「てんかん」は意外と身近な病気
人間の脳には100億本以上の神経細胞(ニューロン)が集合し、常に他の細胞から情報をうけとったり、情報を提供したりしています。
脳内の電気信号が何らかの原因で乱れると、脳は適切に情報を受け取ることや、命令ができなくなり、体の動きをコントロールできなくなります。「てんかん」は、大脳のニューロンを一定のリズムで流れる電気信号が、突発的に過剰に放出されることで、いきなり痙攣、ひきつけ、意識障害などの発作を起こす神経疾患です。
日本人の約1%が「てんかん」を持つと言われ、全国に約100万人の患者がいると考えられています。発作の頻度はさまざまで、一生のうちに数回しか起こらない人もいれば、毎日何回も発作がある人がいます。患者の約80%は18歳以下で、3歳以下がもっとも多く、成人になると発症者は減少しますが、60歳を超えると増加する傾向にあります。
慢性化するてんかんには、食事療法
てんかんの治療は「抗てんかん薬」による薬物治療が一般的です。抗てんかん薬は、脳の異常興奮を抑制する薬で、ニューロンの興奮を抑えたり、興奮が拡がらないようにする働きがあります。薬物治療によって、てんかん患者の約60%は発作が消失し、約20%は発作が4分の1以下に減少しています。
処方された薬をきちんと飲んでいれば、発作はほとんど起きません。しかし、薬をきちんと飲んでいるにもかかわらず、てんかん患者の約30%は発作が抑えられず、慢性化することがあります。「難治性てんかん」と呼ばれる状態です。
薬の効果が見られない難治性てんかん患者には、食事療法を勧められることがあります。なかでも「ケトン食」は抗てんかん作用を持つ食事療法の1つとして、1995年以降アメリカで急速に普及している治療法です。ケトン食治療によって、難治性てんかん患者の約50%の人は「発作頻度が半分以下に減少した」と報告されています。
厚労省も認めた「ケトン食」とは
ケトン食療法は、1921年に開発され、95年経った現在も難治性てんかんの治療法として使われています。なぜ、ケトン食がてんかん発作を抑えることができるのか、そのメカニズムは、いまだ完全には解明されていません。そのため、日本ではあまり普及していないようです。
しかし、厚生労働省は今年(2016年)からケトン食を「てんかん食」として認可しています。小児を対象とした臨床研究では、ケトン食療法はてんかんのあらゆる発作型に効く可能性があるという結果が出ています。
ケトン食は、糖や炭水化物の摂取を極力減らし、脂質を増やした食事です。脂肪が分解されて作られる「ケトン体」という物質が、ニューロンに作用して抗けいれん作用をうながします。てんかん発作に効果があるとされています。
ご飯・パン・麺類・芋類は糖質が高いので摂らないようにします。糖質の1日摂取量は40g以下が目標です。1回の食事で糖質が20gを超えないようにします。ご飯1杯(約150g)には約50g、食パン1枚では約20gの糖質が含まれます。また、蛋白質は体重1kgにつき1〜2gを目安に摂取します。
1ヶ月続けて効果があらわれる
アメリカの女優メリル・ストリープさんが、1997年に主演した「誤診(原題:first do no harm)」という映画は、てんかん患者の家族を描いた物語です。
難治性てんかんの幼い息子が、抗てんかん薬の副作用に苦しみ、やつれていくなか、医師からは「もはや脳外科手術をするしかない」と告げられます。淡々と手術の後遺症を説明する医師に、母親のメリル・ストリープさんは手術への同意をためらいます。
彼女は手術を拒み、図書館で医学書を読みあさります。さまざまな困難を克服しながら、最後はジョンズ・ホプキンズ大学病院で検証されていた「ケトン食療法」を試します。やがて治療は成功し,息子のてんかん発作は消えてなくなります。
この映画は実話に基づく話といわれています。映画には、ケトン食療法でてんかんが完治した患者が、何人も役者として出演しています。監督のジム・エイブラハムズ氏は、息子の難治性てんかん発作を「ケトン食療法」で克服しています。
ケトン食の効果は1ヶ月続けたあたりからあらわれます。専門医の定期検診で意見を聞きながら、約2年続けるのが一般的です。やがて、てんかん発作がおさまってから、段階的に食事制限をゆるめていくのがよいでしょう。