そううつ病に「肥満遺伝子」が関係?

そううつ病に「肥満遺伝子」が関係? ゲノムの分析で発症の仕組みわかる

そううつ病は「ありふれた精神疾患」

藤田保健衛生大学の発表資料によると、そううつ病は「うつ」(落ち込む)と「そう」(はしゃぐ)の気分の波を繰り返す病気で、100人に1~2人の割合で発症する。精神疾患の中では「ありふれた病気」だが、詳しい原因はわかっていない。

研究には全国32の大学・施設が参加。患者2964人と患者以外の6万1887人のゲノム(全遺伝情報)を比較、病気の発症に影響する遺伝子の塩基配列の違いを約90万か所で分析した。

その結果、「FADS遺伝子」がそううつ病の発症に関連があることがわかった。この遺伝子は、コレステロールや青魚などに含まれる不飽和脂肪酸などの代謝に影響を与える遺伝子だ。

ほかの研究でも、そううつ病の患者には肥満体型の人が多く、脂質代謝異常との関連が知られている。研究チームでは、「この遺伝子の研究が進み、仮に脂質代謝異常がそううつ病の原因になっていることが解明できれば、食生活の改善などによる予防や治療効果が期待できる」。

肥満とうつ病に共通の病態が 体重管理で認知機能の低下を防ぐ
うつ病の症状には、気分の落ち込みや興味・関心の低下などに加えて、記憶、学習、問題解決能力、巧緻運動などの認知機能の低下などがある。

うつ病を発症すると、家庭や職場で発症前にはできていた活動ができなくなってしまい、臨床的に重要な問題となることが少なくない。

一方、最近の研究では、肥満とうつ病には共通の病態があると指摘されている。
うつ病と肥満には、慢性炎症、代謝系異常、視床下部−下垂体−副腎系の機能異常など、共通の病態があり、脳形態のなかでは海馬領域の萎縮と認知機能との関連が注目されている。
しかし、これまでの研究は、高齢患者や健常者を対象としており、BMIが30以上の肥満とうつ病との関連は調査されていなかった。

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BMIが高くなるにつれ認知機能が低下

そこで研究グループは、65歳未満のうつ病患者307人と健常者294人を対象に、肥満が、認知機能、灰白質(神経細胞が存在する領域)、白質構造(神経線維が走行する領域)に、どのように関与するかを調べた。

うつ病の診断は、精神疾患簡易構造化面接法と精神障害の診断と統計マニュアル第4版(DSM-?)に基づいて行った。認知機能については、統合失調症認知機能簡易評価尺度(BACS)で判定した

また、114人の患者については、核磁気共鳴画像法(MRI)で得られた脳画像を解析した。
その結果、BMIが30以上の肥満は、うつ病患者における作業記憶、実行機能、巧緻運動速度などの認知機能の低下と関連していることが判明。

一方、健常者では、BMIが30以上の肥満だけが認知機能の低下を示すというより、BMIが体重不足、正常体重、過体重、肥満と高くなるにつれて認知機能が低下する傾向がみられた。  健常者ではBMIが30以上の肥満だけが認知機能の低下を示すというより、BMIが体重不足→正常体重→過体重→肥満と高くなるにつれて認知機能が低下する傾向がみられた。
肥満は脳の皮質体積の減少や神経ネットワークの低下と関連する
注目されたのは、うつ病患者では、正常体重の人の割合が健常者と比べて有意に少なかったことだ。その分、肥満、過体重、体重不足の割合が高くなったことだ。

MRI脳画像を用いた検討では、BMIが30以上の肥満患者は、BMIが30未満の患者と比較して脳の一部の皮質体積が有意に縮小しており、神経ネットワークの指標も低下していることが分かった。
肥満患者では、非肥満患者と比べて、灰白質の体積、白質の神経結合が有意に低下していた脳領域がみられた。

灰白質では、前頭葉、側頭葉、および視床、さらに白質では内包と左側視放線と呼ばれる部分の神経結合が、大うつ病性障害患者のうち肥満者の脳において有意に減少していた。

認知機能障害は灰白質および白質の異常と関連しており、そのメカニズムとしては、肥満とうつ病の共通病態である全身性炎症反応、酸化ストレス亢進、慢性コルチゾール上昇などの相乗効果によって、神経新生減少や神経突起の脱落などが促されたメカニズムが考えられるという。