現代日本人の宗教心について/スピリチュアリズムの台頭

2015年10月05日 10時44分 JST 更新:

▪日本人の心の荒廃 バブル崩壊後の失われた20年から反転、アベノミクスによる経済浮揚効果、東京オリンピック開催に伴う景気浮揚期待もあって、多少なりとも好転の兆しが見えかかっていた日本経済も、消費税によるマイナス効果、欧州ショック、中国ショック等相次ぎ、一転また暗雲が漂ってきている。しかも、これから仮になんらかの神風が吹いて、好景気が訪れるようなことになったとしても、少子高齢化、貧富の格差の拡大、貧困層の拡大、人口減少による地方の衰退(2020年以降くらいからは首都圏でも人口は減少方向へ)、日本企業の競争力の弱体化等、深刻かつ構造的な問題は解決の道筋ひとつ見えてこない。 こんな中で、男女共生涯未婚比率も上がり、独居は拡大する一方だ。地域コミュニティも企業コミュニティも衰退の一途、伝統宗教の基盤も弱いとなれば、何を心の拠り所にすればいいのか。物的な困窮やインフラの劣化もさることながら、日本人の心の荒廃こそ何より心配だ。荒廃の結果として、自殺、暴走(暴力)、精神的な病(ひきこもり、うつ病等)等、ネガティブな想像ばかりが膨らんでしまう。排外主義が強くなったり、怪しいカリスマに煽動されやすくなったり、というようなことも心配になる。 こんな時こそ宗教の出番のはずなのだが、オウム事件のトラウマが強いこともあってか、日本人の宗教アレルギーはかつてないほど高いと言わざるをえず、話題にすること自体はばかられるような空気がある。そもそも日本の伝統的な宗教、特にマジョリティの仏教など、衰退しつつある『檀家システム』の維持管理が精一杯で、『衆生救済』に乗り出すような積極的な話はほとんど聞こえて来ない。結局この問題は袋小路に詰まってしまって、誰も出口が見出せないでいるのが現状と言える。 ▪薄められたスピリチュアル だが、本当に出口はないのだろうか。日本人は心の拠り所なく皆うずくまったまま呆然としているのだろうか。そういう方向に問いを向けると、この数年必ず出てくる、それこそ『定番』の回答には日本人の宗教心の発露としての『パワースポット』の興隆がある。 パワースポットというのは、地球に点在する大地の『不思議な力=科学では解明されていないが経験的に存在を信じる人が多い力』がみなぎっている場で、そこに行くと身分性別を問わず誰でもその力を得ることができるとされる。 『見えないもの』『科学では証明されていないもの』を扱っているという意味では、スピリチュアル(宗教的/心霊的/精神的)の範疇に入るものの、宗教の戒律のような締め付けもなく、特別な修行をせずともご利益がある、という意味では神社仏閣等へのお参りに近いと言えるのかもしれない。スピリチュアルではあるが、極めて薄められたスピリチュアルだ。ただ、昨今、パワースポットに行くための旅行が大流行する等、ブームであることは確かだろう。同列とも言える、スピリチュアル系『癒し』サービスも非常に流行っている。 ただ、この程度であれば、『ご利益があれば儲け物』というくらいの軽いノリの関わりとも考えられ、特に宗教心の高まりとか、人生や世界を考え直す哲学のようなものに繋がるとも思えない、という意見も出てきそうだ。心の拠り所になるかと言えば、なったとしてもさほどの拠り所ではなさそうだ。 ▪輪廻転生を信じる日本人 では、もっと人の世界観をひっくり返すような、生き方を見直さずにはいられないような『スピリチュアル』との接点はないのか。その点について参考になる大変興味深い調査レポートがある。2008年に、国際比較調査グループ(ISSP: International Social Survey Programme ) が行った、『ISSP国際比較調査(宗教)』の結果に基づき、2009年5月にNHK放送文化研究所により出されたレポート、『宗教的なものにひかれる日本人』だ。全体に読みどころの多い好レポートだが、何より私の目がとまったのは、『目には見えないが、宗教上は存在すると考えられているもの』について回答者が『絶対にある』および『たぶんある』と回答した7つの項目の比率だ。
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“宗教的なもの”にひかれる日本人 | 世論調査 – 社会や政治に関する世論調査 | NHK放送文化研究所 大変驚いたことに、祖先の霊的な力:47%、死後の世界:44%、輪廻転生:42%等、4割超が『死後の世界』や『輪廻転生』というような、まさに人生観、世界観に大きく関わるような内容について、あると答えており、7つのうちどれもないと回答したのは、全体のわずか14%しかいない。『日本人は宗教に関心がなく、科学で証明されていないものは信じない』という意見を聞くことも少なくないが、このアンケート結果を見た限りでは、まったくの誤解と言うしかない。しかも、このトップスリーは、若年ほどあると答える人が多く、年齢が上がるほど比率は低い(宗教そのものの信仰は年齢が上がるほど多い)。16歳から39歳までの女性に限定すると、なんと70%前後が『死後の世界』も『輪廻転生』もあると答えている。 もちろん、この答えだけで信仰心や宗教哲学の浸透等をはかれはしないだろうが、それでも、人生が一回限りと考えるのと、死後の世界や輪廻転生があると考えるのとでは、生き方の根幹が変わってくる可能性は大きい。ただ、少なくとも素地は十分にあることは示唆していると言ってよさそうだ。 このレポートには、オウムのトラウマについても、すでに乗り越えられたと判断できるデータが載っている。『仏』を信じる人の比率を時系列にみると、1993年には44%だったのが、1995年のオウム事件の後の1998年では、39%へと減っている。レポートでは、これはオウム事件後の一種の主鏡アレルギーの可能性が強いと分析している。しかしながら、2008年には42%に回復している。宗教アレルギーも薄らいできていること見ていいのではないか、というわけだ。  
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食欲、脳内麻薬βーエンドルフィンと依存症

www.geocities.jp/todo_1091/short-story/027.htm

食べる(食欲)、寝る(睡眠欲)、戦う(生存欲)、性行為(性欲)、身を守るために集団の中にいたい(集団欲)などの本能が満されると … また宗教上の難行・苦行に対しても、その苦痛がかえって脳内にβーエンドルフィンを分泌し、A10神経を興奮させ、いわゆる …  
脳内麻薬βーエンドルフィンと依存症
 

●脳内麻薬、βーエンドルフィン

広義には哺乳類の脳や脳下垂体に存在する内因性モルヒネ様神経ペプチドの総称を指す。βーエンドルフィンは、脳内で機能する神経伝達物質のひとつで、モルヒネ同様の作用を示し、特に脳内の報酬系に多く分布する。内在性鎮痛系に関与し多幸感をもたらすので、脳内麻薬と呼ばれる事もある。この脳内伝達物質は、1975年スコットランドのJ・ヒューズとH・コステリッツが豚の脳から発見し、この物質をエンケファリン(ギリシア語で脳)と名づけた。同じ頃アメリカのシマントフとシュナイダーは仔牛の脳からも同様の物質を発見し、これを後にエンドルフィン(脳内モルヒネを略したもの)と名づけた。他に、豚の視床下部や脳下垂体などからモルヒネ様物質を抽出されている。

1.放出機序

βーエンドルフィンは、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)などと同一の前駆体であるプロオピオメラノコルチン(POMC)に由来する。中脳灰白質(PAG)に投射する視床下部弓状核のニューロンが分泌する。ストレス時に、視床下部から副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)が分泌されると、下垂体前葉からPOMCから切り出されて、ACTHとβーエンドルフィンが1:1の割合で放出される。

2.作用

βーエンドルフィンはオピオイド受容体(モルヒネ様物質の作用発現に関与する細胞表面受容体タンパク質)のμ受容体に作用し、モルヒネ様作用を発揮する。ストレスなどの侵害刺激により産生されて、鎮痛・鎮静に働く。鎮痛作用はモルヒネの6.5倍。中脳腹側被蓋野のμ受容体に作動し、GABAニューロンを抑制する事で、中脳腹側被蓋野から出ているA10神経のドーパミン()遊離を促進させ、それが多幸感をもたらす。パンクセップにより社会的安心感に関与する事が発見された。幼弱イヌとモルモットにモルヒネを与えると、母親から隔離された時に泣く事が少なくなる傾向が見られ、別離の苦痛の症状が緩和される事が分かった。また、βーエンドルフィンはかゆみを増強させる事も知られている。エンドルフィンにはアルファ(α)・ベータ(β)・ガンマ(γ)の3つがあり、β-エンドルフィンはその中でも苦痛を取り除く時に最も多く分泌される。また性行為の際や美味いものを食べた時などにも分泌される。他にも、脳を活性化し、精神的ストレスの解消に効果があり、免疫細胞の防御反応を強化する作用があるとされる。一方、過剰になると性腺刺激ホルモンの分泌を抑制するため、精子の減少や生理不順など生殖障害になる可能性があるとされる。
 

*脳内麻薬物質(最期にもたらされる残酷な救い?)

脳内麻薬物質は交感神経系の興奮により、GABA神経系から分泌されるβ-エンドルフィン等を指す。大量分泌により、精神活動の麻痺や感情鈍麻といった状態になる(離人的、現実感の喪失、自己と外界を隔てる、自分を遠くで観察する、手足の消失感)。闘争も回避も不可能な深刻なストレスにさらされた生物に、最期の救いをもたらすものと解される事もある。完全な降伏と受身の態勢になり、現実感がなくなり、生物は静かに捕食者の餌食となる。長期間のストレスで脳内オピオイド受容体の感受性が上昇するが、この場合個体にストレス刺激や麻薬物質の反復投与を急に中断したり、拮抗物質のナロキソンやクロニジンを投与すると、禁断症状が起こる。受容体の感受性が上昇した個体は、強烈なストレス刺激(自傷行為)なしでは生きていけなくなると言われる。また、脳内麻薬物質の過剰放出は、大脳辺縁系の扁桃体、海馬等にダメージを与える。扁桃体に損傷を受けると、「恐ろしいもの」や「いやなもの」に直面しても避けようとしなくなる。
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