僕は普段から糖質制限をベースとした「先住民食」の啓蒙を行っています。ちまたでは糖質制限の危険を訴えている人もいるようですが、そういう人はアボリジニーやイヌイット、ピダハンにも同じ主張をしてきてもらいたいですね。迷惑なだけでしょうけど。
糖質制限の考え方とは真っ向から反対の食事法として、玄米菜食があります。この理論は明治時代の陸軍薬剤官である石塚左玄が提唱し始め、桜沢如一や東城百合子らによって広められた食事法です。桜沢や東城が玄米菜食の布教を始めたきっかけはなんだったのでしょう。
実はこの二人が玄米菜食に感化された理由は、全く一緒です。二人とも、若いころに結核となり、死にかけていたところに玄米菜食を知り、実践したことで結核を完治させたという経験を持っています。二人を結核という死病から救った食事法である玄米菜食こそ、石塚左玄の食養論の正しさを証明していると、二人は考えたのです。
これは恐らく作り話などではなく、本当にあった話でしょう。僕はそう確信しています。玄米菜食でなぜ結核が治ったのか、その理由こそが、玄米菜食と糖質制限の共通点にあるのだと、僕は考えます。
結核という病気は今でこそほとんど聞きませんが、昔は日本でも、そして世界でも猛威を振るっていて、たくさんの人が亡くなっていた病気です。しかし、結核の流行には、共通のパターンがありました。
まず、結核の流行はそれほど昔のものではありません。17~18世紀ごろから日本でも世界でも良くみられるようになった病気であり、その歴史はそれほど古くはありません。それ以前には、結核よりも同族の菌種によって起こる病気である、らい病(ハンセン病)の方がより一般的でした。
結核の流行には特徴があって、都市部の比較的裕福な層で最初みられたのが、だんだんと下層の人々にも広まっていったという経緯があります。一方、地方の庶民には結核の流行は近世までみられないという特徴もありました。
日本では、江戸時代に江戸や大坂などの都市部で脚気と並んで二大死病と呼ばれ、恐れられていました。結核は感染症ですが、地方の農耕民には流行はみられず、地方の三大感染症とは、はしか、天然痘、水痘(みずぼうそう)の三つでした。
結核は近世まで日本でも世界でも猛威を振るっていましたが、先住民族の間でも流行していました。プライス博士の調査旅行でも、現地人の結核の流行が描かれています。しかし、伝統的な生活を営む先住民族には、結核の流行は全くみられませんでした。
アラスカのイヌイットでも、結核の流行を示す記述があります。結核の流行したイヌイットたちが良く食べていたものは、砂糖のたっぷりと入った紅茶と、バノック(イギリスのイーストを使わないパンのような物、バノックを切ったものをスコーンと呼ぶ)でした。
イギリス人が持ち込んだ近代食を食べるようになったイヌイットたちの間で、結核が猛威を振るったのですが、彼らは伝統食を完全に捨てたわけではありませんでした。食事中の摂取比率は低下したものの、彼らはアザラシやカリブー、シロイルカ、ホッキョクイワナなどの動物性食品もまた、相当程度摂取していました。にもかかわらず、1955年にはケープ・スミス島地域に住むイヌイット130人の内約50人が重傷の結核患者に認定され、カナダ南部の病院に送られたという記録が残っています。
さてここで、桜沢や東城に影響を与えた石塚左玄の「通俗食物養生法-一名、化学的食養体心論」をよく読んでみると、重要なことが書かれています。そこには正食の勧めとして玄米菜食の素晴らしさが書かれているのですが、とても重要な事として、砂糖を摂取してはならないとはっきり書かれています。
もうお分かりですね、日本でもヨーロッパでも、結核の流行と砂糖の普及は完全に重なり、砂糖摂取が多い人ほど結核に罹りやすく、また重症化しやすいという傾向がはっきりと表れているのです。単純な話、桜沢も東城も結核が完治したのは砂糖を止めたからであって、玄米菜食とは関係が無いのです。
ここで砂糖とはどういう物質か考えましょう。砂糖とはシュクロースの事であり、ブドウ糖と果糖が結合した二糖類に属します。人間は糖質を吸収する際は、単糖まで分解してから吸収するので、砂糖は50%ブドウ糖と50%果糖となって吸収されます。
一方で米は玄米だろうが白米だろうが、ほとんどの栄養素がデンプンからなっています。デンプンにはアミロースとアミロペクチンというものがありますが、吸収されるときは単糖まで分解され、ほぼ100%ブドウ糖となって吸収されます。
玄米菜食でも相当量のブドウ糖は食事から入ってくることになるのですが、大きな違いは砂糖を一切摂らないために、果糖が全く入ってこなくなることです。糖質制限は糖質そのものを制限しますから、ブドウ糖も果糖もほぼ入ってこなくなります。そして結核が治ったのですから、結核の原因は、果糖だったという事になります。
果糖は結核の原因となるだけでなく、低血糖症やリーキーガットの強力な原因となりますし、砂糖の1.7倍もの強い甘味は、砂糖以上に脳の報酬系に働きかけ、強い依存性を引き起こします。僕が砂糖に対しことさら攻撃的なのは、ブドウ糖よりもはるかに凶悪なこの果糖のせいであるのです。
現在原因不明の難病や難治性疾患と呼ばれるものの多くが、この果糖によってひき起こされていると考えられます。であるからこそ、砂糖を摂るなと訴えるマクロビや玄米菜食で、多くの人が病気から回復することができるのでしょう。しかしこれも、マクロビスイーツや、精製していないキビ砂糖や自然農法の農園からだけで採蜜したハチミツなどであれば大丈夫、みたいな石塚理論からかけ離れた方向に向かっていくうちに、腐っていくのでしょうね。