白内障 眼内レンズ 近視メガネ 歪み

白内障手術の落とし穴…強度近視の場合
yomiDr
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20150521-OYTEW54939/ より~
白内障手術は、失明を救うというレベルから、見え方の質、さらには生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)の向上をゴールにするようになりました。

遠近両方にピント合わせが可能なバイフォーカルレンズ(現在は健康保険と併用できる先進医療の扱い)や乱視を矯正するトーリックレンズなど眼内レンズの選択肢が広がり、フェムトセカンドレーザ(フェムトセカンドとは千兆分の1秒の意味で、超々短時間のパルスを発生する)を使った精度の高い手術も導入されはじめています。いったいどこまで進歩するのでしょう。
進歩すれば、手術を受ける人々の期待度、要求度が高くなるのは当然です。
70歳代の女性は、元来強い近視でしたが、段々ぼやけが進んでいる気がしていました。白内障手術を受けた友人たちが、「よく見える」と喜んでいるのを聞き、自分も同年代だからと日帰り手術もしている近所の眼科に相談しました。
やはり白内障の診断で、早速手術を受けました。
ところが、期待通りではありませんでした。確かに明るくはなりましたがまぶしさがあり、遠くが二つに見えたり、左眼でみると線がゆがむのでした。手術前は眼鏡をかけずに近付ければ見えた、画数の多い漢字やルビ(ふりがな)が読めなくなったのです。
術者の先生に訴えても、「手術は完璧だし、視力も出ているのにどうしてそんなに不満ばかり並べるのか」と取り合ってくれません。
「他の病院に行きなさい。どこに出しても恥ずかしくない手術だということがわかりますよ。それとも精神科に紹介しますか」と言われたと、がっかりした様子で私の外来にやってきました。
診察すると、確かに手術は完璧でしたが、不満の原因も判明しました。
専門的になるので、簡単に記しますが、全ては強度近視だったことに源があります。この方は、目の位置異常や、左眼の黄斑という網膜中心の最も感度のよいところにわずかな変性が存在していました。大きな病変があればおのずとわかりますが、白内障が原因の見えにくさと医師が一旦いったん判断すると、その術前には、他を細々と調べることは普通はしないのです。
もう一つの不都合は、近付ければ字が大きく映り、よく見えるという強度近視の人が持つ得意技を、眼内レンズで近視度を減らしたことで、使えなくしてしまったことです。
強度近視は成人人口の6~8%と日本人には非常に多く、白人の数倍です。これは、単に眼鏡の問題ではなく、緑内障、白内障、網膜病変、眼の位置異常などが起こりやすい難しい眼でもあります。だから、私たちは強度近視の方の白内障を手術する際には、よくよく慎重に検査をすすめることにしています。
眼科手術の結果に満足できず、受け入れられない状態を、私は「眼科術後不適応症候群」と称していますが、上の例のような白内障手術後不適応が最多です。年間約100万眼と著しく多い手術だからでしょう。
白内障手術の恩恵に与る大勢の人がいる一方で、手術の失敗や医療過誤ではないけれども、不適応例があるということです。
眼は見え方の質が問題になる精緻な感覚器です。今日の白内障手術は、昔のように見えない目を見えるようにする手術と違って、見え方の質が重要になりますから、不適応も起こりやすいのだといえましょう。
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